「10日間はかかるだろう」
そう予測してオリジナルバッグの縫製をオーダーしたら「5日間で出来るよ」との縫製者さんの返答に、純粋な私はいたく感激したものだ。
口でなら何とでも言えよう。
ほとんどのインドネシア人が、言動と行動が伴っていないのは今はじまったことではないではないか、一体何年この仕事やってるわけ?
今なら二週間前の「純粋バカな私」に、こう言ってやるものだ。
一週間を経過しても縫製者さんからは何の連絡もやってこない。
まぁ、まぁ。十分ありうることでしょう。
10日間経過---。
こちらから連絡をすると「あと三日で終わる」とのこと。
それから三日後、何度電話しても「電源オフです」とのアナウンスが虚しく流れるばかり。
嫌な予感。
この人、都合が悪い状況になると、お得意の「スイッチオフ」で何日間でもだんまりを決め込むのだ。
こうなったら直接現場に乗り込むしかないと、なんの予告もなしに、バイクで片道1時間半近くもかかる仕事場へ、「無駄足になりませんように」と心で念じながら向かった。
しかしやはり、私は甘かったのだ。
容疑者はすでに高飛びした後だった。
同じ作業場で仕事をしている縫製者さんのお兄さんが「弟ならジャワに帰省してるけど」と、開口一番。
同行者のスタッフが「嘘でしょ? 信じられない・・・・・・」と、言葉を失い呆然とした。
えっ? 信じないの? 私は信じるよ。
動揺のあまりうろたえる現地人のスタッフに、「弟さん、オーダーしたバッグここで作ってたんだよね? 他の作業場じゃないよね? そのことお兄さんに確認してみて」と冷静にお願いすると、「はぁ~。もう信じられないよ。なんでジャワ・・・・・・」と、シンジラレナイ、シンジラレナイを繰り返す。
どうして信じられないのよ。
信じてあげましょうよ。
あなただって平気で「疲れたから今日はもう仕事しない」って、急ぎの仕事を平気で放棄できる人じゃない。
目撃者(お兄さん)の話によると、どうやら容疑者(弟)は、自宅などではなく、確かにここで作業をしていたようである。
ではやはり、現場はここか?
素材の量は結構なものだったから、作業目的でもなければ、わざわざあんな量の荷物を自宅に持ち帰るはずはない。
証拠品は必ずここにあるはずである。
ということで、勝手に家宅捜査スタート。
たとえ作業が途中であったとしても、遠路はるばるネパールから買い付けた愛着ある素材の布たちを、必ずや救助するつもりである。
しかし、物的証拠は残念ながらひとつも見つからなかった。
こうなったら自宅だろ。自宅ぜったい怪しいだろ。
「お兄ちゃんに自宅の場所聞いて」とスタッフに言うと「知らないって」と、平気な顔で答える。
「んなわけないだろ。そっちの方が信じられないだろ」
納得いかずに「だってこの人、家族の人じゃないの?」と突っ込むと、「家族なんだけど、知らないんだって」と、その点に関してはまったくもって問題視しないところが、あぁ、やっぱり同胞なんですねぇって感じである。
「ねぇ、どうしよっか?」「どうもこうもないっしょ。誰かポリス呼んでこいや!!!」
以前の私なら、間違いなくこのように騒ぎ立てたことだろう。
しかし私も、ここバリ島で大なり小なりいろいろと未知なることを経験させてもらった身である。騒ぎ立てることが一番の無意味ということを知った。(とは言うものの頻度が若干減った程度で、やはりどうしても騒ぎ立ててしまうこと多し)
「ねぇ、どうしよっか?」「どうもこうもないっしょ。ここ居ても仕方ないよ。電話したって電源切ってあるんだしさ。バリ島に帰ってくるまで電源入れる気ないだろうし。ひとまずもう少し様子みよう」
「そうだね・・・・・」落ち込むスタッフに比べたら、自分でも驚くほど冷静である。
信じないの? 私は信じるよ。
そう、私は信じる。
彼は仕事をお願いしてる私たちに、何も言わずにジャワへ飛んでしまったのだ。
仕事が終わっているのか、それとも、まだ途中なのか、そんな肝心なところさえも知らせずに。
そしてそれどころか、いつ戻るかもわからぬまま。
どういうつもりでいるのか、まったくもって理解できないが、それらは紛れもない事実であるといことを、私は信じる。
ただただ、そういうことなのだ。
そして私は信じる。
数日中に彼はバリ島へ舞い戻り、そして、いつものように自分からは絶対に連絡などよこすことなく、私たちを不安にさせたことを謝罪することもなく、なにごともなかったかのように、5日間で完成させる気など最初からなかったのであろうようやく完成させたバッグか、手がつけられなかった生地素材そのままかを、無愛想なあの表情で、差し出すのだろう。
私は信じる。
きれいごとで純粋に彼を信じるのではなく、なるようにしかならない現実が訪れ、そのときそれを、受け入れるしかない自分がちゃんとそこに居ることを。
でも、そのまま彼がトンズラで、布の行方がわからないってことになったら、私は必ず突き止める。家族が「知らない」と言い切る彼の部屋を。必ず、ね。